パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト

 
パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト 8/5 TOHOシネマズ高槻スクリーン1
★★★

→その昔、日本映画がまだ元気だった頃のお話、「悪名」という映画のお話である。主演は勝新太郎。前年の「不知火検校」で新境地を開いたとは言え、1961年当時の勝新はまだまだ一軍半で同期の市川雷蔵には大きく差を開けられていた。勝新は男前ではあったが所謂二枚目タイプではなく、なかなか人気がでなかった。呑気者だった勝新雷蔵に差をつけられたことに焦り始め、雷蔵とダブル主演になった「薄桜記」の時に脚本の伊藤大輔に「どっちが主役だ」と詰め寄っていた。伊藤は「うまい方が主演や」と答えたが、手負いになって雪の中で埋もれながらも白刃を振るい続ける雷蔵が主演なのは誰が見ても明らかであった。二枚目タイプでは雷蔵にかなわないと悟った勝新は新境地に挑む。出世の為なら手段を選ばない悪逆非道のあんまを演じ、アンチヒーローのかっこよさを「不知火検校」で体現して見せたのだ。(「不知火検校」については過去にも記事あり)脚本家の犬塚稔は勝新と共にこのキャラクターを練りこみ、「座頭市物語」を誕生させる。「不知火検校」のヒットで勝新を見る会社の目を変わった。雷蔵に続くスターとして勝を育てようと考えていた。

 会社が選んだのは、大阪の八尾出身の朝吉が天衣無縫に暴れまくる「悪名」。出身の違いはあるが、(勝新は東京の生まれ。でも関西弁がとても上手だ)これならば、勝新のキャラに合うのではないか。下駄を預けられたのはプライベートでも仲の良かった田中徳三。あーでもない、こーでもないと脚本の依田義賢とうんうんうなってアイディアを出してようやく作り上げた。モートルの貞役だった田宮二郎はこの頃、俳優を辞めようと考えていたが本作の出演をきっかけでブレイク。大映を代表する俳優になっていった。引退するつもりだと田宮に持ちかけられた田中監督は「この一本だけ出てくれ」と説得したらしい。

 結果は大ヒットですぐに続編を作れ、と。しかし原作はほとんど使い切っている。当時はシリーズものはなかったので続編のためにネタを残すなんか発想自体がなかったのだ。田中監督は全くのオリジナルでテーマは「やくざの否定」で行こうと決めた。貞はラストでヤクザに殺されてしまう。当然、続編のつもりなどなく、戦地に送られる朝吉も戦死するイメージで撮ったらしい。貞があっさり殺されるシーンはとても悲しい。全編、テンポいいアクションにコメディ色で溢れているだけにこのラストはとても際立つのだ。「続・悪名」は「悪名」に負けず劣らずの作品となった。

 男度胸に暴れまくる朝吉は勝新の地そのものだった。「不知火検校」で見せたふてぶてしいアンチヒーローに加えて、気性のさっぱりとした「悪名」のキャラを確立した勝新大映のスターになったのだ。前者から「座頭市物語」シリーズ、後者から「兵隊やくざ」シリーズが派生して勝新はスクリーンで縦横無尽に暴れ回ったのは皆様ご存知のように。思えば勝新が後年、映画に出なくなったのは彼のファン層である男性が映画を見に行かなくなったからであろう。

 長々となんで「悪名」について語ってるねん、オッサンは映画間違うとるんちゃうか、とナウなヤング皆さんはお思いでしょう。当時の日本映画はプログラム・ピクチャーと言って企画ありきでどんどん本数を作っていった。時代、国は違いますがこの「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズがそうしたプログラム・ピクチャーのテイストを持っている。「パイレーツ・オブ・カリビアン」自体がディズニーランドのアトラクション「カリブの海賊」が題材となっている、言わば企画物である。金はかけているが、そんなにヒットすると思わんかっただろう。

 が、結果はディズニーが息を吹き返すまでの大ヒットとなった。そして文芸映画やティム・バートンの映画ぐらいしか出番のなかったジョニー・デップの最高の当たり役となった。それまでのジョニー・デップって一部の女性映画ファンには人気あったが、一般的な人気があったとは言いがたい。「ブロウ」なんて誰も見てないだろう。ジャック・スパロウは悪役なんだがひょうきんでどこか憎めない。自分の部下に船を取られてしまう間抜け野郎である。そんな三枚目キャラをかっこよく、どこか可愛く演じてアカデミー助演男優賞にまでノミネートされたのだ。

 もちろん続編が決まった。ロクな企画を持っていないディズニーが柳の下の泥鰌を狙わないわけが無い。が、「パイレーツ・オブ・カリビアン」は続編を考えて作られたものではなく、続編の作りようがなかった。敵役だったバルバロッサも死んでしまったし、ジャックは船を取り戻し、ウィルとエリザベスも結ばれ、大団円のラストを迎えている。どう続かせるか。。となると考えつくのはジャック・スパロウの過去である。

 どう見ても強いコネも人望もなさそうな彼がどうしてブラック・パール号を手に入れたのか。ジャック・スパロウは腕は立つが世渡りは下手である。そしてジャックは海賊だが完全なワルではない。そうしたところにエリザベスが惹かれていき、ウィルと三角関係にしてしまい、仲間のドラマが描いていった。悪党なのに、ルークに付き合ってシリーズを通じて正義の為に戦ってしまったハン・ソロがモデルか。デイヴィ・ジョーンズも恐ろしい悪霊の割には妙に計算高く、ジャバ・ザ・ハットの風味である。

 大作の割には本作がプログラムピクチャー風味が感じられるのは、こうした製作経緯にあると思う。そうした世界観がきっちり固まった中でのお遊び、籠に入れられたまま逃げる、「住吉駕籠」のラストみたいなシーンや丸太を背負って走っていくジャックのアチャラカな面白さを生み出しているのだ。

 ただ「続悪名」とは違って本作は次回作が予定されている。後半のジャックの描き方は「なぜ次回作があるのか」という意味づけみたいになっている。ラストにはとんでもない奴が出てくるのでお楽しみを。本作を見る前にだが、DVDでもいいので前作をきっちり見ておいたほうがいい。人間関係などは前作のほとんど踏襲なのでしっかり把握しておかないとかなりしんどい。

 ちなみに「悪名」シリーズは「これ以上の続編はない」という田中監督の思惑を超えて半年後に「新・悪名」が公開。戦地から帰ってきた朝吉は貞の弟、清次(演じるのはもちろん田宮二郎)と新コンビを結成。前作で結婚していた女房、中村玉緒は何と勝が戦場で死んだものと他の人に嫁いでいた、とかで振り出しに戻って以降12作まで続きます。

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