ホテル・ルワンダ
●ホテル・ルワンダ 3/2 みなみ会館
★★★★
→井筒和幸がDVDの宣伝をしているのは気に食わないが、映画は面白かった。署名運動での上映決定や町山智浩がパンフに書いた文章からネットで起こった一悶着も含めてエピソードの多い作品ではあるが、ちと大げさに過ぎるところもある。井筒の「メジャーが見向きもしなかった」というのは宣伝文句で「ホテルルワンダ」は出来もよかったのでいくつかの配給会社が交渉を始めていたが、アカデミー賞にノミネートされたことで値段がぐんとあがった。つまりふっかけたわけだ。こういうことはよくあることで、時間がたてばまた値段が下がるので待っていた。その最中に起こったのがこの運動だったわけです。確かに主演のドン・チードルはコアな映画ファンをのぞいてほとんど知名度がない。配給会社が手をこまねくのはわかるような気がします。
題材がしんどいから配給できなかったわけではなくて、単純に商売上の理由で「メジャーは動かなかった」わけです。観客の署名を集めることで商売になることをアピールするのは一つの手段だと思いますが、「いい映画」や「ふさわしい映画」(民青みたいだ)が出てくると反対に「上映するまでも無いバカ映画」や「商業主義に犯された豚映画」だのが出てきそうで厭だ。それって結局は後戻りでしかない。公開を危惧された「太陽」ですらあっさりと公開されたり、森達也の映画がDVD化されておるほど、日本の映画状況はそう棄てたもんじゃないだろう(少なくとも政治的な理由で見れない映画はあまりない)。さていつもの横路、いや横道はこれほどに映画ですが。。
ポールは外国系ホテルで雇われ支配人として働いている。彼は有能な男で様々なルートを使って高級な洋酒や葉巻を手に入れ、それがホテルの売りになっていた。また世情不安定な空気を察知し、もしもの時のために汚職軍人への付け届けをして色々と便宜を図ってもらうことも約束している。そうした抜け目無さも兼ね備えた男だったのだ。もしクーデターが起こっても自分の家族は守れる。そして、もし虐殺が行われても国連の軍隊が我々が守っている、と彼は考えていた。
しかし、彼の目論見は全く違った。大統領が暗殺されたことでフツ族によるツチ族の虐殺が勃発。彼はハイエースに妻を含むツチ族を乗せて避難。多額の賄賂でその場は切り抜けたが、状況は悪化の一途であった。ニック・ノルティ率いる国連軍は平和維持軍であり、現地の紛争には介入しないように命令を受けていた。ホテルは次々と外国人の客が減り、助けを求めて逃げ込んでくる人でいっぱいになっていた。教会から子どもが避難してきたのに、追い返すことなどできるわけがない。フツ族はますます凶暴となり、虐殺は悪化の一途をたどっていた。ポールは国軍の将軍に酒をふるまい、何とかホテルを守っていたが。。
ポールのモデルになったポール・ルセサバギナはインテリで体格も立派で弁も立つ。大虐殺から民衆を守り、無事に亡命させた現地の英雄である。ストーリーとそのキャラクターからハリウッド好みの典型的なヒーロー物にすることもできただろう。しかし監督が描きたかったのは、英雄の話ではなかった。本作のポールは有能な人物であるが、それほど勇敢な人間ではない。彼がズルズルとホテルに残り続けたのは、どこかで何とかなると思っていたからだし、難民を受け入れたのも成り行きであった。「しょうがねえなあ」と思いながら、八方手を尽くしていたのだ。
監督は主演をドン・チードルにすることにこだわった。それは主人公を等身大の人物に描こうとしていたからだろう。状況が悪化する中で、彼の心は恐怖で張り裂けそうになっていく。脅えながら日々を過ごし、何とかやり過ごそうとしていた。動揺してネクタイが結べなくなり、パニックとなってワンワン泣きじゃくるシーンの迫力はすごい。人は誰もが英雄ではない。しかし、「しょうがねえなあ」や「厭だけどやるしかない」というところから、その人の持つとんでもない勇気が発揮されるのだ。亡命の機会をつかみながら、ホテルの人を放ってはいけないとトラックを降りるシーンは感動的であった。そうした弱い人間が時として見せる強さ。それは生活の匂いが漂ってきそうなほど空気に溶け込んだ人物、例えば「トラフィック」の刑事役や「リチャード・ニクソン暗殺を企てた男」での修理工役が印象的であったドン・チードルでしか出せなかった。そして彼は監督の演出意図をしっかり読み込む俳優だったのだ。
オリバー大佐役のニック・ノルティもよかった。限られた範囲で精一杯の努力をする苦労人ぶりがよく出ていた。最近、つまらん作品への出演ばっかりで(「白い刻印」はもちろんのぞく)残念に思っていたが古豪復活である。
数あるアフリカの民族紛争の中でもこのルワンダ内戦の悲惨さは突出している。一説によると50万人以上のツチ族が虐殺されたらしい。フツ族とツチ族は見た目は全く変わらず、紛争が起こった当時も彼らは同地域に住んでいた。朝起きれば、隣人が銃を持ってベッドの隣に立っていた。そんな虐殺劇であった。何も手を下さなかった国連、フツ族の民兵に武器を与えたフランスにも責任はあるが、そもそもの原因はやはりツチ族に優先権を与えた植民地政策に遡ってしまうのだ。歴史とはやはり事件、経過の積み重ねで一朝一夕に片付く問題ではないのだ。ルワンダの事件は近隣諸国にも紛争を勃発させ、いまだに問題は片付いたとは言えない。そうしたアフリカの理解にも役立つ映画であった。
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