北村和夫、死去
北村和夫が亡くなった。享年80歳。昨年に盟友今村昌平が亡くなり、その後を追うように亡くなった。文学座の訃報によると4月20日に脳梗塞で入院し、肺炎をこじらして亡くなったらしい。風邪は怖い。思えば、今村昌平が亡くなった際に葬儀委員長を務めたのが北村和夫であった。今村昌平と北村和夫。小学校時代からの親友であった。北村和夫は今村作品の常連ではあったが、主演はなかった。俳優をコマとしか考えていなかった今平のことなんで、お互い、どっかに遠慮はあったのかもしれない。私見ではあるが、割とおいしい役をもらってると思う。「赤い橋の下のぬるい水」の老人役なんて「すべて、ちんぽがかたいうちだぞ」という決め言葉までもらってるもん。
この人は文学座の役者だった。文学座は残った人も出た人もすごい顔ぶれなのだが、北村和夫の同期も昨年亡くなった仲谷昇と日本映画を代表する椅子男俳優小池朝雄。日本映画全盛期、次から次から作られる映画で脇役を彩ったのは彼ら、舞台俳優であった。北村和夫も映画会社の枠を飛び越えて、様々な作品に出演している。晩年まで割りとコンスタントに出演した人で現に「Beauty」という作品に出演中だったらしく、これが遺作になるらしい。私が最後に見たのは多部未華子主演の「ごーやちゃんぷるー」の祖父役だった。
俗っぽい、一癖あるオッサン役がうまかった。成瀬巳喜雄の「乱れる」での義兄役とか今平さんの「赤い殺意」、「復讐するは我にあり」での小川真由美の旦那役とか匂ってきそうなほどの俗人ぶりを発揮していた。「復讐するは我にあり」の小川真由美を折檻するシーン「おまえなんて俺がいなければのたれ死にだ!人殺しの娘を誰が愛人にするんだ!」の迫力がすごい。腰を動かしながら、コチョコチョ説教するシーンも好きだな。今平作品では「にっぽん昆虫記」の知恵遅れな親父役、娘の乳にしゃぶりつくシーンが強烈。これもすごい。
近年では井筒和幸の「のど自慢」のお爺ちゃん役。引きこもりの孫を預かるお爺さんで出番は少ないけど、ラストに「上を向いて歩こう」を熱唱して鐘を鳴らす。口調は乱暴だが、孫をとても大切にしている。この作品、私は大好きで何回も見てるんですが、北村和夫の演技がいいんですよ。ベンチに座って、二人で弁当を食べてると年寄りがやってくる。今のお爺ちゃんなら自分が立っちゃうんですが、北村和夫は孫に「どうぞ、って席譲るんだ」と促すのだ。お別れの時にニッコリ笑って、孫の頭をくしゃくしゃっとなでて、親指をにゅっと立てる。この映画で最も好きなシーンだ。「ちゅらさん」で見せたクラシック好きな年寄りも印象深かった。
北村和夫の葬式は文学座の盟友、加藤武が葬儀委員長を勤める。この人は随分、元気だがこの人まで亡くなったら俺はもう号泣しますよ。日本映画史を彩った名優がまた一人、世を去った。合掌。
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