小田切みき、死去

tetorapot2006-12-06


 小田切みきが亡くなった。今年の映画人の訃報は現役から遠ざかって枯れるように亡くなるケースと老いてますます盛んとばかりに現役バリバリの人がふっと亡くなってしまうケース、先日亡くなった実相寺昭雄なんてまさにそのケース、が多いような気がする。。まあ有名人ってのは大体そんなもんですが。。小田切みきについては典型的な前者のケースでもうほとんど身を引いていた。知らなかったが、2003年にやった舞台「シベリア超特急4」に友情出演していたとか。これは丹波哲郎も出ていたよなあ。。

 私にとってはやはり「生きる」の小田切とよ役が一番印象深い。目的を持たずに人生を送ることの無意味さを描いた本作において、彼女は映画のテーマを雄弁に代弁していた。ガンを宣告された、志村喬演じる役所の課長は人生に絶望し、街中をブラブラと放浪する。そこで出会うのが小田切みきだ。彼女は彼の部下であったが、何事につけても無気力な役所に見切りをつけて役所を辞めてしまう。彼女の明るい笑顔と生きる意欲に惹かれた志村は彼女につきまとう。その有様を見た息子は「親父はいい年をして女に狂った」と誤解してしまう。。志村の人生は息子に尽くしたものであった。早くに妻を亡くした彼が男手一つで息子を育てたのは、息子が義母との関係で苦労すると思ったからだ。なんて薄情な息子だ、とぼやく志村に対して小田切はこう言い放つ。「課長さんが息子さんのことを思うのは勝手だけど息子さんにも息子さんの人生があるわ。恩を着せられては迷惑だわ」

 キツイ台詞であるが、本当のことである。どんな理由をつけようとも、自分の人生は自分で決断し、その責任を負うべきものである。そして生きている限りは何かをなさねばならない。それができない人間は死んでいるも同然である、と黒澤明は「生きる」の中で語っている。小田切は役所を辞めてもおもちゃ工場で働いている。「こんなものでも子供は喜んでくれるの。課長さんも何か世の中の役に立つことをしたら?」この言葉が彼を揺り動かす。そして暗渠となっていた沼地を公園にするために奔走し始めるのだ。

 くるくる動く大きな目が魅力的で「むふっ」という笑い方も大変に愛らしい。天真爛漫に見えて人一倍、人生を考えていた女性を見事に演じていた。この映画が説教臭くなくて、楽しんで見ていられるのは彼女のはつらつとしたキャラクターによるものが大きい。

 「生きる」の他には「警察日記」や「張込み」にも出ているがさほど印象的には残っていない。後年は「チャコちゃんシリーズ」の名子役である四方晴美の母として、安井昌二の妻として名を知られることになる。なお「チャコちゃん」シリーズではお母さん役として出演していたこともあり、実の親子が親子役を演じるということが話題になったこともあったらしい。今にして思えばそれがどうした、と思わんこともないけどね。なお、この「チャコちゃんシリーズ」の後番組となったのが宮脇康之の「ケンちゃんシリーズ」でケンちゃんはチャコちゃんの弟として登場していたらしい。享年76歳。年に不足はあるまい。また一人、全盛期の黒澤明を知る人が亡くなった。戦後60年とはそんな時代なのだ。合掌。

2年前に他のブログで「生きる」の感想を書きましたので、再録しておきます。