今村昌平死去

今平


 今村昌平が亡くなった。享年79歳。「新宿桜幻想」が頓挫したことを知った時に多分、「赤い橋の下のぬるい水」が遺作になるんだろうなあとぼんやりと思ったが、思い入れの強い監督であったし、作品も好きだったので、訃報はやはり悲しい。瞬間、言葉を失った。

 リアルタイムで見た今村監督の作品は「赤い橋の下のぬるい水」とオムニバス映画「セプテンバー11」の「おとなしい日本人」のみ。「赤い橋の下のぬるい水」の頃は東京に住んでおり、盛夏の浅草で見たのが思い出になっている。この人のすごさを本当に思い知ったのはリバイバルで見た「にっぽん昆虫記」であった。「赤い殺意」「エロ事師たちより 人類学入門」「人間蒸発」「復讐するは我にあり」「うなぎ」と好きな作品はいくらでもあるが、やはり「にっぽん昆虫記」を見た衝撃は言葉に言い表せない。代表作はカンヌの受賞作である「楢山節考」や「うなぎ」が挙げられることが多いが、最も勢いのある今村昌平が楽しめるのは60年代の豚と軍艦 (1961年)、にっぽん昆虫記 (1963年)、赤い殺意 (1964年)、エロ事師たちより 人類学入門 (1966年)、人間蒸発 (1967年)、神々の深き欲望(1968年)であると思う。

 関係者の談話も発表されたが、三國連太郎の「エネルギッシュで、粘り強くて、自分を見つめて生き抜いた人」という言葉が一番印象深い。今村監督と三國さんは「カンゾー先生」で決裂。主演を降板している。その模様は香取俊介の「今村昌平伝説」で書かれているが、現場がめちゃくちゃだったらしい。息子であり、脚本家でもある天願大介の冷静な、親父への手厳しい評価がスパッと書いてある。竹中労嵐寛寿郎聞き書きをまとめた「鞍馬天狗のおじさんは」の中に「神々の深き欲望」の撮影についての箇所がある。近親相姦がテーマと聞いてアラカンは出演を断りますが、「すぐに終わりますから。。」口説き落として南大東島まで連れて行かれて1年近く撮影に付き合わされた。今村昌平、謝りもせずに「ほらまたキャメラ見とる!あんたは主役じゃないんだ!」と怒鳴られ、何度も何度もやり直しをさせられた。あまりのつらさに幾度も脱走しますが、そのつど追いかけてくる。しかも監督は毎日、女優の沖山秀子を抱いとる。。ホンマか嘘か知りませんが。。

 セックスや笑いをテーマにしつこく、人間とは何かにこだわり続けた監督であった。人間の厭なところを描きながらも、そこには人間への深い愛情があったと思う。その映画作りは作品を通して多くの映画人に影響を与えた。長谷川和彦原一男、そして三池崇史。彼は今村監督が作った日本映画学校の卒業生でもある。三池監督が天願大介と組んだ「ぼっけえ、きょうてえ」も今年公開される。アメリカで撮られた作品であるがあまりにもすさまじい作品だったのでテレビ放映の予定が無くなってしまった怪作である。念願の「新宿桜幻想」は果たされなかったが、後に残る者の大きな目標になったのではないかと思う。

 映画監督は死しても作品は残る。「豚と軍艦」など未見の作品も多いので追っていこうと思う。どっかで特集上映やってくれないかな。やっぱり映画館で見たいし。。まずは「赤い橋の下のぬるい水」をゆっくりビデオで見たいと思う。合掌。

セプテンバー11 [DVD]

セプテンバー11 [DVD]

赤い橋の下のぬるい水 [DVD]

赤い橋の下のぬるい水 [DVD]

にっぽん昆虫記 [DVD]

にっぽん昆虫記 [DVD]

赤い殺意 [DVD]

赤い殺意 [DVD]

復讐するは我にあり デジタルリマスター版 [DVD]

復讐するは我にあり デジタルリマスター版 [DVD]

カンゾー先生 [DVD]

カンゾー先生 [DVD]

人間蒸発 [DVD]

人間蒸発 [DVD]

神々の深き欲望 [DVD]

神々の深き欲望 [DVD]

遥かなる日本人 (同時代ライブラリー (259))

遥かなる日本人 (同時代ライブラリー (259))

今村昌平伝説 (人間ドキュメント)

今村昌平伝説 (人間ドキュメント)

今平犯科帳―今村昌平とは何者

今平犯科帳―今村昌平とは何者

映画は狂気の旅である―私の履歴書

映画は狂気の旅である―私の履歴書

鞍馬天狗のおじさんは (ちくま文庫)

鞍馬天狗のおじさんは (ちくま文庫)