田村高廣、死去

兵隊やくざ


 田村高廣が亡くなった。個人の意志で葬儀は身内だけで行い、訃報も葬儀後に発表される予定だったらしい。この人らしいエピソードだと思う。享年77歳。52歳で亡くなった父親の阪東妻三郎よりも25年も長く生きた。年に不足はないが、4月初めまで映画に出演していたらしく、急死であったと思われる。

 1953年、父親の阪東妻三郎が52歳の若さで亡くなった。高廣は同志社大学を卒業後、貿易会社でサラリーマンをやっていたが、周囲や木下恵介の勧めで俳優に挑戦することになる。24歳で木下恵介の「女の園」でデビューし、松竹大船で活躍するがやがて大映東映に活躍の場を広げていく。

 田村高廣という俳優の素晴らしさは、脇役がきっちりできたことだろう。主演もうまかったが、それ以上に脇で光った。主演が光るためには脇役がきっちりと演技ができないといけない。そして主演と共に光るのだ。田村高廣はそうした脇役の醍醐味を知った俳優であった。同じようなことは長門裕之にも言えると思う。気品があったので殿様や家老、上役もうまかった。若い頃の代表作は1957年の「張込み」であろう。松本清張の原作を野村芳太郎が映画化したこの作品で彼が演じたのは指名手配中の殺人犯であった。「あいつは必ず、彼女に遭いに来る」と刑事の宮口精二大木実は彼のかつての恋人で、今は人妻として平凡な人生を送っている高峰秀子の「張込み」を続ける。やがて現れた田村高廣は一時の逢瀬を楽しみ、逮捕されていく。。演技の下敷きになったのは「野良犬」の木村功であろうが、何かに焦燥しながらも時代に翻弄されていく青年が描かれていた。

 代表作はなんと言っても「兵隊やくざ」の有田上等兵役である。勝新演じる、天衣無縫な暴れん坊である二等兵の大宮と名コンビを組んで軍隊という組織社会を渡り歩いていくはみ出し者を楽しそうに演じていた。有田上等兵は冷静であるが決しておとなしい男ではない。大宮をただ怒るのではなく、彼が軍隊という理不尽な組織に対する怒りに共感し、理不尽な規律を逆手にとって敵に一矢報いる。この有田上等兵のキャラクターなくして「兵隊やくざ」シリーズは成り立たなかっただろう。「大宮!」と大喝する田村高廣の声が好きだった。

 他にも「喜劇 にっぽんのお婆あちゃん」での老人ホームの園長役、「無宿人別帳」の正義感は持っているが行動は全く鈍い奉行役、「忍者狩り」の冷静な家老役、「清作の妻」の清作役、「白い巨塔」の里見助教授役、「泥の河」の父親役、「忠臣蔵外伝・四谷怪談」の浪士に怯えきった吉良上野介役と出演作品をいくつも挙げることができる。増村保造と組んだ「清作の妻」での鐘を鳴らし続ける姿が印象に残っている。大映増村保造山本薩夫と出会ったのがこの人の演技者の幅を広げたと思う。

 何度か「二代目阪東妻三郎」襲名の話があったが、本人は固辞し続けた。演技も全く違うから、と語っていたらしいが、そこには阪東妻三郎の息子ではなくて、俳優”田村高廣”としての自負もあったのだと思う。俳優として現役のまま、亡くなったことは幸せなことであったろう。合掌。

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