黒木和雄、死去
ショックである。長らくの雌伏を越え、「美しい夏 キリシマ」「父と暮せば」と傑作を連打し、新作の「紙屋悦子の青春」の公開を控えての死である。記事によると今月の初めまでは元気に新作の準備も進めていたらしく。文字通り急死のようだ。まだまだ撮りたい作品もいっぱいあったのだろう。
私は黒木和雄を二回見ている。美松劇場の閉館の日に上映された「竜馬暗殺」の舞台挨拶(2004年1月)とその年の9月に開催された京都映画祭である。京都映画祭では「山中貞雄監督を語る」というテーマで自分の山中貞雄への思い、そして伝記映画を企画していることを語っていた。ここ最近、毎年のように新作を撮っていたので、そろそろ山中貞雄の映画を撮るかな、と思って楽しみにしていたのだが。。返す返すも残念だ。「これだけ凄い監督を一兵卒として殺してしまった戦争というものを私は許すことができない」と語っていたことを今でも覚えている。私は安易に反戦を語る人があまり好きではないが、彼の映画は「戦争は普通の人の幸せを壊す」ことをまざまざと描かれており、印象に残った。
ドキュメンタリー映画の出身で生涯、大手には縁のない人であった。代表作である「竜馬暗殺」はATGで800万円で撮ったらしい。時代劇はただでさえ、金がかかるので、派手なことはできない。セットは土蔵の中の一つだけしか組めないからあとはロケで何とかしようと映像京都の協力を得て、ロケ地めぐりをしたそうです。ATGというのは儲かるのは映画館だけで監督に残るのは借金だけだったので、お金の面でも苦労したと思う。何の本か忘れたが、トレードマークになっていた黒づくめの衣装は昔からで「何日着てても汚れが目立たない」からという理由だったとか、なんとか。本当か嘘かわかりませんが。バブルがはじけてからは1990年の「浪人街」から「スリ」までは映画が撮れなかった。「スリ」も低予算の映画であったが、世間からおいていかれた人々のあがきを寒々しく描き出していた。香川照之を初めて見たのもこの映画であったし、今はさっぱり見なくなった真野きりなの存在感も素晴らしかった。思えば、今は無きシネマアルゴの最終上映はこの映画であった。
享年75歳。もっと若いと思っていた。1930年生まれの監督ももうこんな年なのである。熊井啓も同い年である。(ちなみにクリント・イーストウッドも30年生まれである。元気やな。。)同年代の監督の中では最も気を吐いていた監督であった。久世光彦のときにも思ったことだが、現役のまま、亡くなったことはやはり喜ぶべきことなのだろうか。。また一人、映画人が世を去った。合掌
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